能代電設工業にはさまざまなチームがありますが、必ずしも「同じ課」の所属だけがチームではありません。スポーツや写真などの趣味を共有するチームから、専門知識を駆使するプロフェッショナルチームまで多岐に渡ります。しかし、ここでご紹介するのはそれらとも違った独自の「チーム」です。
1人は45年の長きにわたり能代電設工業を支えてきた最年長エンジニア、戸松勝彦さん。もう1人は新卒入社2年目という最年少エンジニア、丸谷竜輝さん。2人の間には40歳以上の年齢差があります。
彼らは「技術継承チーム」とでも呼ぶべきでしょうか。その関係は、古き良き時代の職人と弟子のような深い結びつきを持っています。単なる技術の伝承を超えた互いの尊敬と信頼、ここではそんな2人の結びつきについてご紹介したいと思います。
戸松:弟子を取ったつもりはないけど(笑)
丸谷:僕は師匠だって思ってますよ(笑)
戸松:まだ丸谷が高校生だったときに、学校のインターンシップで当社に来てくれたんです。インターンシップって、割と無難な作業だけで終わっちゃうことが多いんだけど、丸谷はちょっと雰囲気が違っていて、いろんなことをやってみたそうな感じだったから「溶接でもやってみるか?」と聞いてみたんですよ。そしたら二つ返事で「やります!」ってな?
丸谷:楽しそうだったから、やってみたかったんです。
戸松:そんなにうまくできないだろうって思って見ていたら、思いのほかうまくてね(笑)私が言った内容をすぐに理解して、吸収しちゃう。私らの時代は「センス」とか「才能」なんて言葉は認められない時代だったけど、TIG溶接という経験が必要な作業をやらせてみたら見事にできたんだよね。もちろん仕事レベルではまだまだだけど、最初からこんなにできるやつはいなかったからね。
戸松:だから、インターンが終わると同時に会社の採用担当に「あいつ(丸谷)を絶対うちに入社させてくれ!」って話したよ(笑)
丸谷:戸松さんから教わるのが純粋に楽しかったというのもあります。技術に対する深い理解があるのはもちろんだけど、感覚だけじゃなくて言葉での伝え方が的確で。言われた通りにやってみたらうまくできたという感じでした。それから、インターンの時に溶接で作らせてもらったのが名刺だったので、もうこれは入る運命だな、と。名刺というより表札くらいの大きさなんですけども(笑)
戸松:嬉しいことに、本人(丸谷)が自分から習いたいと言って私のところに来てくれるので、教えない理由がないよね。私も長年勤めて来た中でたくさんの後進に教えて来たけど、こういった技術を「仕事だから」というスタンスで学ぶ人と、丸谷のように「好きだから・面白そう」というスタンスで学ぶ人は、明らかに違いがあるものです。
少しだけ昔話をすると、私が入社した40年以上前は、新人が簡単に溶接させてもらえる環境なんてなかった、特にTIG溶接はね。溶接が必要な場所って、つまりは強度や美観が必要なところだから、素人作業では絶対にダメなんです。だから私も先輩だけじゃなく、溶接作業が見られるところにはどこでも行った。そうやって学ぶ時代だったんだね。
でも今は違う。能代電設工業には練習をする環境もあるし、必要なら私も教えてあげることもできる。丸谷みたいに本人がやりたいって志願してくれるなら、自分の持っているものを全部受け継いでもらいたいと思うよね。
丸谷:恵まれた環境だと思います。現場では戸松さんの動きを見ているだけでその精密さや、事故を起こさないための周囲への気配りや目配り、無駄のない動きの全てが勉強になりますし、本社に戻って加工場で溶接を習っているときには、その美しさやリズムに憧れますね。戸松さんの溶接はアートの域だけど、僕はまだまだです。
戸松:確かに丸谷は溶接の技術に関してはまだまだです。今のところはまだうちの仕事を任せるところまではいかないかな。でも「こいつはできるようになる奴だ」ってのは、長年やってると分かるものなんです。こういうのを若い人たちはセンスって言うのかもしれないけど、私が思うには「技術への興味、関心、向き合い方」なんだよね。丸谷はそれがいいんだ。溶接だけじゃなくていろんなものに興味をもって、吸収したがるからね。
戸松:彼もいずれは施工管理技士とかになって、現場で「指示を出す側」になるのかもしれない。だけど、指示を出す側が技術を知らないのは、本当に危ないことなんです。ノウハウの有無で作る書類にも違いが出てくるし、関連会社と同じレベルで会話をすることも難しい。まだ2年目に入ったばかりという今だからこそ、いい意味で「広く浅く」学んで欲しいんだ。私に憧れてくれるのは嬉しいけど、外の世界も見て欲しいとも思うよ。
丸谷:社の加工場には、一通りの作業ができる設備が整っているのですが、まだ僕が理解していないものもあります。まずはこれを全て理解し、実践できるようになり、社内の皆さんから「丸谷に頼めばこれ、作れるよ」と頼ってもらえるようになりたい。ゆくゆくは、僕もまた後輩にこの技術を継承できるようになりたいですね。
戸松:技術の継承なんて大げさな言い方はしないけど、でも自分が培ってきたものを習いたいと言ってくれる若者がいるってことは、幸せだし頼もしい。そういう人がいない業界もたくさんあるでしょうから。
技術を身につけるということは、視野が広くなるということ。視野の広い人がリーダーになれば、現場は安全になる。丸谷も現状に満足せず、自分なりに次のステップを意識しながら頑張って欲しいね。
入社45年の戸松さんによる「技術を身につけることは、視野が広くなるということ」という言葉は、インタビューを通して何度も心に響きました。彼らの師弟のような関係が示すのは、技術の継承が単なるスキルの伝授に留まらない深い意味を持っていると感じます。
入社2年目の丸谷さんは、車やバイクを愛する若者でもあります。「戸松師匠」に学ぶようになってからは、オフの日の楽しみ方にも変化があり、仕事で得た専門知識が自分の世界も広げてくれているという実感もあるとのこと。「好きこそ物の上手なれ」とはよく言ったもので、遠くない将来には全社員が丸谷さんの技術を頼りに彼の元を訪れる日も遠くはないのかもしれません。